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丸山正雄 真木太郎 INTERVIEW MARUYAMA MAKI 01

丸山正雄さん・真木太郎さんインタビュー

後編

クオリティを追求するあまりに迎えた新たな難局

――60分×8話という形式はNetflixでの配信が決定したときに決まったんですか?

丸山:もっと前ですね。原作のボリューム感を半分にまとめるのを断念したので、原作を削らずにやるには8本作るしかないと。

真木:Netflixでの配信が内定したのは2020年3月でした。でも実は、その2年半も前にNetflixにこのパイロットを見せているんですよ。「これはすごい!」と評価していただけたんですが、「作品全体をこのクオリティで作れるなら契約しますよ」と言われて、ちょっとドキっとしちゃった(笑)。もっともなことを言われちゃったなと……。丸さんも「8話分を8つの会社にふればいいんだろ」と言いつつ、『PLUTO』という作品をどうすればきちんとしたクオリティで全部作れるか、答えがなかなか見つからない状態だったんです。それで、配信内定まで2年半も時間が空いちゃったんですよ。

真木太郎

――真木さんとしては、製作費を複数の企業で出資しあう、いわゆる「製作委員会方式」のような、別の売り方は考えなかったんでしょうか?

真木:まず、バジェット(全体の製作費)が高すぎたので、製作委員会は組めないと思ったんです。そうなると、今、アニメ制作に対して一定規模以上の予算を取れる体制は限られてきて、その中でも、もうNetflixしかないと思ったんですね。だけど、「全部このクオリティで作れます」とNetflixを説得する材料を探すのに、2年半もかかってしまったということです。

丸山:当時は、真木さんには悪いけれど、「パイロット通りのものができるわけないじゃん」と思っていましたね(笑)。でも、もうやるしかないから、やる以上は全力で頑張るし、やれるところまでやろうという気持ちでした。

――クオリティを保つために、どういった体制で実際に作っていったんでしょうか?

真木:結局、スタジオM2が元請けという形になって、その下についた6つの制作スタジオをフォローする形になりました。プリプロ会社なんて、本来ならもっと手前の作業で終わりなんですが、それだと求めるクオリティを保って作ることができない。結果的に、M2の守備範囲がどんどん広がっていきました。それでもM2のスタッフの層が厚いから、なんとかできたんです。

丸山:もともとM2だけでも、全8話のうち1話分を作れる体制はあったんです。でも、それには、「時間を限定しない」という条件が必須だったんです。当初は時間が無制限にあったから、パイロット版のように、僕が納得するまで何回でも手を入れて作るというのが、もともとM2のスタイルだったわけです。
 それから、クオリティを上げるために大事だったのは、やっぱりキャラクターですね。藤田(しげる)くんには「キャラクターには必ず手を入れなさい。浦沢くんのキャラをそのまま描ける人は日本中探しても君しかいないんだから、全カット必ず手を入れること!」と、ずっと言っていました。浦沢キャラはたいていおじさんなので、それ以外のアトムやウラン、エプシロンを彼が描くことが特に大事だと言い続けていたんです。中でも8話あたりのウランは、よくできているんですよ。原作をただコピーしているだけじゃない、そう言えるだけのものになっていると思います。
 でも、意見の食い違いやトラブルは、M2内でもたくさんあったんです。スタッフと僕の意見も対立して現場は大喧嘩でしたから(笑)。スタッフを選んだのも僕なので、そのことについては申し訳ないことをしましたね。

――スタジオM2のもとに各スタジオをつけて、M2がフォローするという画期的な体制だったんですね。

丸山:このやり方でしかできなかったと思います。10年前なら、僕もいろんな意味でもっと力があったし、もっと別の方法もあったと思います。でも、今は、僕が仕事をお願いしたいような人たちは時間的にも拘束されていて、やってほしいと思った人が「やりたい」と言ってくれたとしても頼めないような状況なんです。「いい作品を作るために、この人とこの人にやってもらう」という体制作りは、今のアニメ業界ではできなくなっているんですね。でも、そんなことはわかっていたんです。今いる人材でどう作るか、なんですよ。

紆余曲折を経て決まった配信時期……そこからがつらかった(笑)

――最初は時間が無制限だったというお話ですが、配信が決まると必然的に納期が決まりますよね?

真木:2020年に内定した段階ではまだ決まっていなかったんです。通常のテレビアニメでも、ある程度、放送時期が近づいてから番組編成(放送する曜日や時間帯の決定)をします。『PLUTO』も実際に配信時期が決まったのは、2022年の夏だったと思います。

丸山:だけど、それで使える時間が無限大じゃなくなった(笑)。納期が決まったときには、最初の4話はほとんど終わっていたんですよ。でも残り4話分についてはどうなるかまだ見えない部分があって、仕事としては、そこからがつらかった……。無限大の時間をかけて前半の第4話を作っている間は楽しかったですね(笑)。
 M2も第1話の作業が終わったら、次は第8話に取りかからなくてはいけなかったんです。本当は第1話と第8話をやったら、もう手一杯なんですよ。でも他の話のフォローもしつつ、何とか納得できるものにはなったのでM2のパワーも相当なものだったと思います。

丸山正雄

――その間、真木さんはNetflixと密にやり取りされていたんですか?

真木:最初はかなりこまめにやり取りしていましたね。Netflixとしても本気でプロダクションと対峙していかないといけない、という気持ちがあったんだと思います。こちらもスケジュール通りにちゃんとお金を使っていますとレポートを出したり、ビデオ会議をこまめに行ったり……。ただ、ある程度の段階で「これなら最後まで大丈夫だろう」と信頼してもらえたので、現場同士に任せるようになりました。

アニメ化する意味はあったのか? 10年をかけての集大成とは?

――丸山さんは「最後の作品」という覚悟だったとおっしゃっていましたが、集大成と言うべき作品が完成した今、どんなお気持ちですか?

丸山:正直なところ、“集大成”と言っていいのか、すごく迷っていますね。「今までの自分の経験を全部詰めた」という意味なら、間違いなく僕のアニメ人生の集大成ではあるんですが「全部やりきったか?」と聞かれると困っちゃう部分があるんですよ。確かに全力で取り組んではいたんですが、どうしても気になる部分は出てくるわけで……。今までどんなに評価された作品でも「これでパーフェクトだ」と思うことはなくて、「あそこはこうしたかった」と、何かしら思ってしまうものなんですよ。特に今回は10年もかかったんですから。

丸山正雄

真木:監督やプロデューサーは、自分で「集大成だ」なんて言わないですよ。周りの人間が勝手に言うだけで。

丸山:まあ、「これでパーフェクトだ」と満足したら、もう何もやらなくてよくなっちゃうからね。『PLUTO』をやっているときも、途中まではそういう気持ちになると思っていたんですよ。でも納期が決まって残っていた部分を作っていたら、その気持ちが変わっていって……。あと1か月半でいいから、もう少し時間が欲しかったと思ってしまう(笑)。
 僕としてはパイロット版を超えるという意気込みでやったんですが、実際にできたのかどうかは自分ではわからないですね。アニメ化にあたって浦沢くんから「漫画は死ぬ思いで作りました。あなたも同じように苦しみなさい」と言われたので、できたときに「終わりました。言われた通り十分苦しみました」と、ちゃんとメールを送りました。「もうこれが限界です。あとは勘弁してください」と書いたら、一応「お疲れ様」という言葉はもらいました(笑)。

――では最後に、改めて見どころを聞かせてください。

真木:原作はもちろん素晴らしいんですが、けっこう分かりにくい部分もあるんですよ。だからこそ、アニメにすると、より分かりやすくなったと思いましたね。漫画は能動的に自分が読むものですが、アニメは受動的なものですから。声優の力もあって、作品が持つメッセージがダイレクトに伝わりやすいんじゃないかと感じました。だから、アニメ化する意味はちゃんとあったと思います。実際にかけた製作費もかなりなものになりましたし、結果的に相当ハイクオリティなものができあがっています。2時間の映画ならともかく、6つのスタジオで8話8時間分の映像をちゃんと統一感がある高いクオリティで作れたというのは、本当に稀有な例だし、誇れることだと思っています。間違いなく、見ごたえはありますよ。

丸山:自分なりに考えた、この作品のうたい文句がひとつあるんです。「8時間ちゃんと観ることができれば、泣けますよ」と。普通のテレビアニメのように、AパートがあってBパートがあるという作り方もしていないし、CM休憩もない。そういう形式は初めてで、作るのも大変でしたが、8時間かけて観るのもけっこう大変だと思うんですよ(笑)。でも8時間頑張って観てくれたら、必ずご褒美として涙がついてきますから、ぜひ最後まで観てほしいですね。

(取材:2023年8月)

丸山正雄 真木太郎

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