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浦沢直樹 INTERVIEW NAOKI URASAWA 01

浦沢直樹さんインタビュー

後編

漫画連載時の苦労をアニメ制作の方々はもう一度味わうのか!?

――アニメについてもお聞きしていきたいと思います。今までにも、アニメ化の話は何度かあったと伺いました。

 そうですね。立ち上がっては消え、という感じでした。

――そして今回ついにアニメ化が実現しましたが、そのお気持ちはいかがですか?

 アニメを本当にやると決まったのは実は相当前なんです。「今回はやりそうだぞ」というより、ずーっとやり続けていたんですよ。どこでどう発表するのかもわからない状態のときから、丸山(正雄)プロデューサーが「とにかく作るんだ」と言うんです。それで、「キャラデザインを監修してくれ」とか「脚本を読んで監修してくれ」だとか、どんどん言ってくるんですが、どのメディアでいくのかもはっきりしないまま、丸山さんが「とにかく作るんだ」って(笑)。あの情熱は本当にすごいですね。「『PLUTO』を作るまで俺は死なない」「俺は死ぬから早く作らないといけないんだ」と言うんですよ。だって、2012年7月のフランスのジャパン・エキスポに行ったときも、『PLUTO』を作るということで記者会見をしましたから。とりあえず、どのメディアでどういう形態で流すかということよりも、「とにかく作る」と言っていましたね。

――いつになるかはまったくわからない状況で、アニメ化するために裏側では動いていたと。

 だって、ずっとその作業をしていたんですから。プロモーションビデオも、実は作ったのはすごく昔なんですよ。作っちゃってるんだもん、とりあえず(笑)。珍しいですよね。放送局や放送形態といった座組が決まってから企画が動くのではなく、“作りたい”という想いだけで作り始めちゃっているという……。

――その情熱がついに今回、結実したんですね。

 作品を流してくれるところができてよかったです。本当に商売抜きで作ってきたという感じでしたから。

浦沢直樹インタビュー後編1

――アニメ化に際してたくさんの期待の声が寄せられていますが、浦沢さんがアニメ制作陣に期待することは何でしょう?

 まず、『PLUTO』というかたちで漫画にするときに、僕がどのくらいしんどい思いをしたか、という話ですよ。まあ、僕自身の想いが強すぎたから、しんどいことになっちゃっているんですけどね(笑)。
 でも「これをアニメ化したい」という話が出たときから、丸山さんもそのくらいの思いで作っている。アニメのスタッフのみなさんも、そういう思いで作ろうとしている。アニメには、僕は監修というかたちでちょっと参加させていただいていますが、僕が漫画にしたときに感じたあのしんどさを、この人たちはもう1回味わうのかって。だから「本当にやるんですか」という感じでしたね(笑)。「経験したことのないようなプレッシャーやしんどさが、ものすごい勢いで襲いかかりますが、みなさんは行くんですね、制作の旅に出るんですね」という気持ちで、その勇気に心の中で拍手を送りましたね。

――アニメ映像をご覧になったときの感想はいかがでしたか?

 本気なんだな、と思いましたね。本気であれば本気なほど、制作する作業はとんでもないものになるぞ、と。アニメ化と言っても、手塚先生の作った『鉄腕アトム』という世界の中の『地上最大のロボット』というドラマにチャレンジするということですよね。イメージで言うと、僕は高い山の切り立った峰を一度登ってきた経験者みたいなところがありまして。だから、先ほども言いましたとおり「みなさんはもう1回あそこを登るんですね」という感じで(笑)。

浦沢直樹インタビュー後編2

子どものときに感じたあの気持ちを裏切らないアニメになっていて欲しい

――手塚治虫先生の名前や作品名は知っていても、若い世代の人は何かきっかけがないと実際に触れるのは難しいと思います。今は配信などもあるので、『PLUTO』のアニメをきっかけに、1960年制作の『鉄腕アトム』を観てみようと思う方も増えそうですね。

 当時のアニメ『鉄腕アトム』は、手塚先生がしっかり関わって作られていたものですが、30分の作品にするにあたってコンパクトにまとめている部分もあるんです。なので、アニメで取っかかりを作ったみなさんは、そこから手塚先生が描いた“漫画”にもう1回戻っていただけたら、それが一番素晴らしい楽しみ方かなと思います。原本である手塚先生が描かれた『鉄腕アトム』の中には、ロボットを通して人間へのメッセージが込められているので。『PLUTO』のアニメをきっかけに、手塚先生の原本にまで遡ってもらえたら、僕らとしてはとても嬉しいですね。

――これまでにも浦沢さんの作品は、『YAWARA!』や『MASTERキートン』などがアニメ化され、『20世紀少年』は実写映画化されました。これらの作品と『PLUTO』で、メディアミックス化される際の関わり方や意識の違いはありますか?

 自分の作品を映像化していただく際、わりと自由に作ってもらっているんです。でも、今回の『PLUTO』の場合は手塚先生からお預かりしたドラマなので、それを損なわずに届けるということを考えると、やっぱり違う責任が入ってきちゃうんですね。そこが大変だし、意識しないといけない部分だと思っています。
 『地上最大のロボット』は僕が5歳のときに読んで、「こんな気持ちになったことがない」と思わされたドラマなわけじゃないですか。さらに13歳のときに初めて『火の鳥』を全部読んで、自分の人生のほとんどの思考が決まったと感じるくらい、大きな影響を受けたんです。つまり、5歳から13歳までに手塚作品に触れて人格が形成されたような経験を持つ浦沢少年が、僕に言ってくるんですよ。「半端なことをやったらただじゃおかないぞ」って。そのせいで蕁麻疹になったんだと思うんです。
 おそらくアニメの制作陣にも同じような経験をしてらっしゃる方がいると思うんですよ。「子どものときに手塚先生の漫画を読んで、本当に人生を変えられた人たち」ですね。彼らの中にいる“その子”のためにも、人生をかけてちゃんとしたものを作らないといけない、と思ってくださっているのではないかと……。
 自分の作品を気軽に作っているのとちょっと違うのは、そういう部分なんじゃないかなという気がしますね。

浦沢直樹インタビュー後編3

――誰よりも厳しいのは、内なる少年時代の自分なんですね。

 そうですね。一番厳しいのが“あの子”なんです。“あの子”にがっかりされたら、もう終わりなので。

(取材:2023年4月)

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