『鉄腕アトム』は、ロボットの少年・アトムを主人公とした漫画であり、世界中で愛されている手塚治虫の代表作の一つである。
ⒸTezuka Productions「手塚治虫文庫全集 鉄腕アトム①」(出版:講談社)
もともとは1951年に漫画誌「少年」で連載された『アトム大使』の登場人物のひとりだったアトムを主人公として、装いも新たに始まった『鉄腕アトム』は、1952年の連載開始以降、瞬く間に人気作品となっていく。1963年からはテレビアニメ『鉄腕アトム』も放映が始まり、このアニメ版も日本最初の30分テレビアニメシリーズとして大ヒット、日本におけるテレビアニメ文化の基礎となっていく。
ⒸTezuka Productions
こうした人気の中、1964年から連載が始まったのが「史上最大のロボット」だ。
国を追われた中東の王サルタンがアブーラ博士に命じて作らせたロボット・プルートウは、世界最強を証明するために、世界中の名だたるロボットたちに戦いを挑み、彼らを破壊していく。そしてプルートウは、アトムにも戦いをしかけるが、お茶の水博士はアトムにプルートウと戦うことを禁じる。しかし、プルートウはウランをも巻き込み、アトムに決闘を挑み続けてくるのだった。さらに、プルートウ対策に乗り出したドイツのロボット刑事ゲジヒトも倒されてしまう。アトムはプルートウに戦いの無意味さを説くがプルートウは聞き入れない……。そして、遂にアトムはプルートウとの最後の決戦に臨むことになる。
ⒸTezuka Productions「手塚治虫文庫全集 鉄腕アトム⑦」(出版:講談社)
そもそも「史上最大のロボット」は、連載誌「少年」で『鉄腕アトム』とともに、人気を博していた横山光輝の『鉄人28号』に対抗して描かれたという。
だが、アトムの敵役となるプルートウは、戦うためだけに作られ、主人の理不尽な命令に逆らうことができないという、悲哀に満ちた存在として描かれた。また、モンブラン、ノース2号、ブランド、ゲジヒト、ヘラクレス、そしてエプシロンといったロボットたちも、わずかな登場ながらも鮮烈な印象を残した。さらに、一連の事件の黒幕として重要な役割を担うサルタンとアブーラ博士もまた、それぞれキャラクターがもつ背景も描かれ、単なる悪役にとどまらない魅力を放っている。
そして、物語の根底にある戦うこと・戦争への批判精神に裏打ちされた物語は、単なるバトルアクションに止まらない高いメッセージ性を込められた作品となっている。
ⒸTezuka Productions
翌1965年、テレビアニメ『鉄腕アトム』でも放送されたこのエピソードは、単行本化にあたり「地上最大のロボット」と改題。
単行版収録にあたり、「この物語はアトムの中でも 一番人気のあったもの」「一番仕事が 楽しかったころの作品」と手塚自身が語ったように、数あるアトムの物語の中でも屈指の人気を誇るエピソードとなった。
『鉄腕アトム』の連載は掲載誌「少年」の休刊で1968年に終了するものの、1980年にはカラー作品として2回目のテレビアニメシリーズが、そして2003年の『ASTRO BOY 鉄腕アトム』と、たびたび映像化されていく。そして、これらのテレビアニメシリーズでも「地上最大のロボット」を原案とするエピソードは放送されている。
ⒸTezuka Productions
そして2003年9月、この「地上最大のロボット」をリメイクした漫画『PLUTO』の連載が開始される。
マンガ家・浦沢直樹が、プロデュースに長崎尚志、監修に手塚治虫の実子・手塚眞、そして協力に手塚プロダクションという布陣で手がけた『PLUTO』もまた大人気作品となり、累計発行部数は1000万部を突破。また、第9回手塚治虫文化賞マンガ大賞や平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞など数々の賞を受賞するなど、各方面から高い評価を受けている。
そして2023年10月26日、この『PLUTO』がNetflixオリジナルアニメシリーズとして登場する……。